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「だめ、いない。却下。嫌だ」
家に帰って早速藤代さんに女紹介してと話を持ちかけたら、こんな返答が返ってきた。しかも即答で。
「何で急に彼女なんか欲しがるんだよ!?」
どうしてみんな急にとか言うかな。別に急じゃねぇんだけど。
「何時までも独り身じゃ寂しいだろ。もうすぐイベントの時期だし、1人寂しく過ごしたくはないだろ?」
剛史たちにも言ったセリフを再度言えば、何故か両肩を掴まれて詰め寄られた。
「俺がいるじゃん!クリスマスもお正月も俺、高橋と一緒に過ごすつもりだったんだけどっ」
おお~い。
「勝手に決めんなよ。てか、何で藤代さん泣いてんの?」
目の端に何故か涙を溜めてる藤代に、オレはやや醒めた視線を送る。
「嫌だよ。高橋に彼女なんか出来たら……」
本格的に泣き始めた藤代はそう言ってオレに抱きついてきた。
「あのなぁ……」
身体を引いて藤代を引き剥がそうと肩に手をかければ、藤代は抵抗するように腕に力を入れやがる。
「くっつくな、離れろ。ええい、鬱陶しい!」
「……嫌だぁ」
情けない声を出すなっ。
2人がけのソファで何が悲しくてコイツに抱きつかれてなければならないんだ。
オレは必死にコイツを剥がそうとするんだが、どうも上手くいかない。っていうか、お前細身のくせに力ありすぎなんだよ!
「取り消して」
「は?」
オレの胸に顔をうずめたまま(果てしなく嫌な状態だ)くぐもった声を出す藤代。
「彼女欲しいっていうの、取り消して」
ようやく上げた顔には、いまだ涙が溜まっていた。
「あのな……」
取り消せって言われてもな。
「お前だって彼女くらい欲しいだろ?」
「いらない」
……即答?
「いらないって、お前好きな子いるんだろ?」
美紗子を振ってまで好きだと思った子が。
「それは……」
「その子と付き合いたいって思わないわけ?」
「思うけど……」
真っ直ぐにオレだけを見ていた藤代の視線が、微かに揺れる。
「だったらクリスマスとかオレと過ごすなんて言わずに、その子と過ごせばいいだろ?」
「だって、それは……」
「とっとと告れ。んで付き合っちまえ。お前に落とせない女はいない」
ぽんぽんと肩を叩いて激励?してやる。心が篭っていないのはまぁ、仕方がないとして。
「お前は好きな子と付き合う。オレも適当にカノジョつくる。クリスマスも正月もそれぞれ恋人同士で過ごす。男2人でむさくるしく過ごすより可愛い女の子と一緒のほうがお互い楽しい時間を過ごせるだろ?」
な?と藤代に言い聞かすように微笑んでやる。
……何でオレ、こんなことで藤代を説得してるんだろうな?
思いはしたがまぁいいや。考えるのも面倒だし。こうして話しているとわがままを言う弟を説得しているみたいだ。
あいつら元気かなぁ~。
「……なに…て………たい…だ…」
「ん?」
ふと兄弟のことを思い出していれば何やら藤代が俯きかげんに呟いた。
藤代の洩らした言葉が聞こえず耳を寄せてみると、バッといきなり顔を上げられた。しかも何か睨まれてるし。
「そんなに……そんなに童貞を捨てたいんだっ!」
「はあ!?」
何イッテルんですカ?コノ人は?
「楽しい時間って何だよっ!高橋のスケベ!」
いや、あのね……
「結局高橋は女の子とイチャイチャしたいだけじゃん」
そりゃイチャイチャできるんならしたいですけどね……
「何でそうなる?」
オレの言葉は至極まっとうな疑問だと思うんだが、藤代はなおも喚き続けた。
「クリスマスや正月に女の子と過ごすなんて、やることはひとつしかないじゃん!」
「まぁ、クリスマスは一般的にはそうかもしれんが。正月はそうでもないだろ?いや、お前は毎年そうだったのかもしんないけどさ。てかお前と一緒にすんなよ」
軽く軽蔑の視線を送ってやれば、何故か逆に同情の視線を送り返された。
「ああ、高橋『まだ』だしね……」
「……………………」
……何が言いたい。
思わず握りこぶしを作ったオレに非はないはずだ。うん。
「分かったよ……」
何やら決意したように頷いた藤代を、胡乱げに見返す。いまだ握りこぶしは作ったまま。
「分かった、そんなに捨てたいんなら俺が……」
藤代はそう言っておもむろに自分のパーカーの裾に手をかけた。
って待て待て待て待て!
オレは服を脱ごうとする藤代の手を慌てて掴んだ。
「おおおおお前、何しようと……」
「俺、高橋がしたいって言うなら別に……」
頬を染めて視線を逸らす藤代に一気に鳥肌が立つ。
「何考えてんだ!テメェは!!」
阿呆だ。阿呆がここにいる!
「高橋のこと」
うわぁぁぁあっ!真面目な顔して言っちゃったよ、この人っ!
「高橋のことだけだよ。今、俺が考えてるのは……」
熱っぽい視線。艶を含んだ笑み。低く掠れた声には色気がふんだんに乗せられている。
頬を撫でる手は優しく、周りの空気は甘く染まっていく。
だ、誰!?この目の前にいる人誰!??
一気に纏う雰囲気を変えてきた藤代に不覚ながらオレは激しく動揺した。
頬を撫でていた手が顎にかかり、上を向かされる。吐息がかかるくらい近くにある藤代の顔に、思わず心臓が跳ねる。
「高橋……」
藤代の親指が形を確かめるように唇に触れれば、その感触に背中がぞわぞわとした。
細められた眼が切なげに揺れていて……
「ごめんなさいっ!」
思わずオレは謝っていた。
「すみません、ごめんなさい!もう変なことは言いません!!」
「……本当に?」
やや疑わしそうな視線を向ける藤代にオレは何度も頷いた。
「本当!本当です!」
「もう、彼女欲しいとか言わない?」
「言いません!女なんて要らないです!」
「クリスマスもお正月も一緒に過ごしてくれる?」
「過ごします!むしろ過ごさせてください!」
オレがそこまで言うと、藤代は途端に顔を綻ばせた。
「本当?わーい、高橋大好き!」
そう言って抱きついてきた藤代はいつもの藤代で、頭に花でも咲いてんじゃないかってくらい能天気な顔で笑っている。さっきまでの藤代とはまるで別人だ。
「約束だからね!破んないでよ?」
はしゃいだ声を出す藤代にオレは何度も頷いて、いまだ激しく動く心臓を胸の上から押さえた。
だ、誰だったんだ!?あれは!??